抹消登記と登録免許税
不動産の所有権移転登記経由後に提起された同登記抹消登記請求を認容する判決に従い登記が抹消されても、登録免許税は過誤納金とならない。
1. 事件の概要
(1) 乙、丙及び丁らは、共謀してX会社(原告)から不動産売買代金等の名目で金員をだまし取ろうと企て、平成17年5月24日、丁において、X会社代表者甲に対し、本件土地の所有者であるかのように装い、偽造された本件土地の登記済権利証等を示し、本件土地をX会社に売却する意思を表示するなどして、甲に本件土地の所有権を取得できると誤信させ、X会社をして、本件土地を買い受ける旨の売買契約(本件売買契約)を締結させた上、売買代金7億1250万円を乙の銀行口座に振り込ませて詐取した。
X会社は、本件売買契約に際して、本件土地に自らを債務者とし、B会社を抵当権者とする抵当権を設定した。
(2) X会社は、平成17年5月24日、法務局において、本件売買契約に基づく所有権移転を登記原因として所有権移転登記申請を行い、登録免許税として491万9700円を納付し、さらに、抵当権の設定登記申請を行い、登録免許税として354万8000円を納付した(本件納付)。
登記官は各申請を受けて、本件土地につき所有権移転登記(本件移転登記)及び抵当権設定登記(「本件抵当権登記」。本件移転登記と併せて「本件登記」という。)をした。
(3) X会社は、本件土地の真の所有者から本件移転登記の抹消登記請求等を求める訴えを提起された。
平成19年5月29日、当該請求を認容する判決があり、同判決を登記原因として本件移転登記の抹消登記が同年8月29日になされ、また、平成18年6月8日、抵当権設定契約の解除を登記原因として本件抵当権登記の抹消登記がされた。
(4) X会社は、いわゆる地面師詐欺によって無効な本件売買契約を締結させられて本件納付をしたものであり、①本件納付に係る登録免許税は国税の誤納金であって還付されるべきである、②本件納付により国(被告)に登録免許税相当額の利益が生じ、X会社に同額の損失が生じ、その間に因果関係があることは顕著であって、国の利得には法律上の原因がないから、X会社に不当利得返還請求権が認められるとして、その還付又は返還を求める本件訴えを提起した。
2. 本件判決の要旨
(1) 甲は、乙らの詐欺により丁を本件土地の真の所有者と誤信し、所有権を譲り受けられると誤信して本件売買契約を締結した上、売買代金を支払い、本件土地に抵当権を設定し、本件登記を申請して登録免許税を納付したこと、登記官は、X会社の申請のとおりに本件登記をしたこと、本件登記がされた後、抵当権設定契約の解除により本件抵当権登記の抹消登記手続が行われた上、判決により本件移転登記の抹消登記手続が命じられ、本件移転登記は抹消されたことが認められる。
そうすると、本件登記の申請は、申請の時点で上記事情が形式上明らかであれば、不動産登記法25条4号に該当し、登記官において却下すべきものであったが、形式上適法なものとして登記され、その後に、本件抵当権登記については、抵当権設定契約の解除により、本件移転登記については、判決により抹消登記手続を命じられたことにより、それぞれ抹消登記がされたものにすぎない。
(2) ア X会社は、本件納付をして一旦申請のとおりの形式上有効な本件登記を経由したのであるから、登記による利益を受けたというべきであって、本件納付に係る登録免許税は誤納金に当たるとは認められず、また、X会社は、本件登記に基づく納税義務に従って本件納付をしたものであるから、国に対する不当利得返還請求権も成立しない。
イ X会社は、物権的にも債権的にも登記請求権を有していない場合には登記自体が無効であり、登記が有効要件を欠いていたため抹消された場合、登記は遡って無効となり、登記等に伴う利益を受けておらず課税要件も充足されていなかったことになるから、登録免許税は誤納金となり、納税者は、その還付を求めることができると主張するが、登録免許税は、現に登記等を受けるという行為に対して画一的に課されるものと解されるから、主張は採用できない。
また、X会社は、一過性の事実として登記を経由したことを課税の対象と捉えることは、犯罪行為に加担、正当化する面も有するものであって正義公平に反すると主張するが、登録免許税は、登記等のそもそもの原因の性質を問わず、登記等があれば成立するものであり、中立的なものであって、主張は採用できない。
(3) 以上によれば、本件納付による誤納金は存在せず、X会社の還付請求又は不当利得返還請求は、いずれも理由がない。
( 平成22年12月22日名古屋地方裁判所判決(確定))
3. 本件判決に対するコメント
(1) 本件判決について
ア 本件納付は「過誤納金」に当たらないから、X会社の還付請求又は不当利得返還請求には理由がない、とした本件判決の判断は、正当なものといえる。
イ 本件のような場合には、国に対して登録免許税の還付を求めることはできないことを考慮し、不法行為を行った相手方に対して損害賠償を求めることが、適切な対応ということができる。