遺言書と異なる相続 

遺言書と異なる内容の遺産分割を行いたい

過日父が亡くなり、母、私、姉が相続人です。相続財産は土地と預貯金ですが、遺産はすべて母に相続させる旨の公正証書遺言がなされていました。相続人全員の話合いの末、私が土地、母が預貯金をそれぞれ相続することになりましたが、遺言と異なる内容の遺産分割を行いたいとき、どのようにすればいいのでしょうかという、依頼があります。
このような場合、本来であれば、遺言は遺言者の死亡時から効力を生じます(民法985条1項)ので、相続財産の帰属に関する有効な遺言が存在するときは、その遺言内容に従って相続財産の帰属が定まることになります。
相続財産の帰属に関する遺言には、遺贈や遺産分割方法の指定など異なる内容の遺産分割を成立させる意思を有している場合であっても、遺言執行者がいるときに、遺言執行の参加ないし同意なしに遺産分割協議を成立させられるかが問題となります。

遺産分割協議書の作成上の留意点

遺言内容と異なる遺産分割協議書を作成する上では、遺言の存在とその内容を認識していることを明らかにするべきであるといえます。そもそも、遺言の存在を知らない相続人が一人でも存在するときは、たとえ遺産分割の内容自体について全相続人の間で協議が整ったとしても、遺言内容と異なる遺産分割をするとの点についての合意が成立しているとはいえません。仮に、遺産分割協議書に署名捺印がなされたとしても、遺言の存在を知らない相続人がおり、その者が遺言の存在や内容 を知っていたならば遺産分割協議書の内容に同意しなかったであろうと認められる場合には、錯誤による意思表示であると評価され、その遺産分割協議は無効であると解されます。
それゆえ、「相続させる」 旨の遺言がなされたときなど、遺産分割方法の指定がなされたときは、遺産分割協議書の中に、遺言の存在とその内容を明記したうえで、相続人全員の総意でその内容と異なる遺産分割を行う旨を明らかにすべきです。また、特定の相続人に対して特定遺贈がなされた場合には、当該相続人が遺贈の放棄をする旨を明記すべきであり、そのことによって、遺言の存在とその内容を認識していることが明らかにされるといえます。
このような記載をすることにより、遺言内容を知っていたならば遺産分割協議に応諾しなかったから遺産分割協議は錯誤により無効であるとの主張が後日なされることを封じることになり、紛争防止に役立ちます。

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